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緑の少女⑰

 水滴。水滴の音だ。
 結局この部屋は誰にも見つからなかった。もしあのとき見つかっていたのだとしても、きっと僕らの姿は影にしか見えなかったはずだ。中は寒いからよかった、懐かしい匂いもしていた。蒸すような日の下には、僕らとてもじゃないけど居られそうになかったから。
 きっとこのままいつまでだって隠れてはいられない。我慢比べは長くついたけれど、それももうすぐ終わりだ。それにしても、あの子は。さっきまで自分だってここに隠れていたはずなのに、鬼になった途端忘れてしまったみたいに。
「あの子はもう帰っちゃったのかな。さっきから音がしないし、それに暗くもなってきた。ライトのないこの部屋のことには気づかずに、太陽の射す方へ戻っていった」
「そうだね、出ていった。けど、それだってもう随分昔のことだし、僕だってもう時間だ」
「そっか、君ももう行くんだね。鬼にはまだ見つかっていないのに。チャイムの音はまだなのに。でも、分かっていたよ。僕だってずっとそれを望んでいた。本当だよ。ただ、ただ言い出せなかっただけなんだ。でも、ああ、やっぱりもう少しここにいてよ、一人ここにいるのはちょっとつらいな」
「大丈夫、君だってもう立てるんだから。それにこの部屋はもう窮屈でしょう。この頃夜な夜なうなされていたよ」
「わかってる、わかってるけど…」
「だったらなんで」
「一度ここを出たら、君だってここへは戻れないんだよ!ほら、ドアの金具が壊れているんだ。それにここを出られたら、君だってきっとこの部屋のことを忘れてしまう。そうしたらもうここへは戻れない。それでも行ってしまうの」
「大丈夫、すぐにまた帰ってくるよ。必ず帰ってくる。君がここに残るのなら、僕だってきっと帰ってくる」
「帰ってこなくていいんだよ、それじゃあ意味がないんだから…」
「それもそうだね」
「そうだよ」
「うん。じゃあ、また」
「またはないんだって」
「そっか…じゃあ、いつか」
「だから、いつかもないよ」
「ああ」
「最後に僕に触れてよ。ずっとここにいるから、僕は君を忘れられはしないのだから。見えなくなっても、忘れてしまっても、僕はいなくならない。君は僕のことを忘れられはしない」

 ねえ、どうか気をつけて出ていって。これからもしばらく雨がつづくから。

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